無限級数の不思議
無限には,不思議なことがたくさん隠れている。
交項級数(正負が交互に現れる級数)
\begin{align}
1 - \frac{1}{2} + \frac{1}{3} - \frac{1}{4} + \frac{1}{5} -
\cdots + \frac{1}{2n-1} - \frac{1}{2n} + \cdots \label{1th} \\
\end{align}
は収束して,その和が \( \log_e2 \)(底 \( e \) は自然対数の底)になる。この級数の項の順番を入れ替えて,
級数
\begin{align}
1 + \frac{1}{3} - \frac{1}{2} + \frac{1}{5} + \frac{1}{7} - \frac{1}{4} + \frac{1}{9} + \frac{1}{11} - \frac{1}{6} +
\cdots + \frac{1}{4n-3} + \frac{1}{4n-1} - \frac{1}{2n} + \cdots \label{2th} \\
\end{align}
を作ると,この級数も収束する。しかし,その和は \( \log_e2\sqrt{2} \) であり,先の級数の和と異なる。
順番を入れ替えると和が異なるということは,無限の世界では「\( a+b=b+a \)」は通用しないということになる。
これが無限の悪戯である。
古代ギリシャ人が,無限を扱うのを避けていた理由がわかるような気がする。
「アキレスと亀」や「飛ぶ矢は飛べない」に代表されるように,
いろいろなパラドックスが今日に伝えられているが,それらは無限に関わる問題である。
それほど無限とは不思議な世界である。
無限級数に関する興味深い等式をいくつか紹介しておこう。
\begin{align}
\zeta(s)= \frac{1}{1^s}+\frac{1}{2^s}+\frac{1}{3^s}+
\cdots +\frac{1}{n^s}+ \cdots \label{3th} \\
\end{align}
は,\(s \gt 1\) のとき収束し,\(0 \lt s \leqq 1\) のとき発散する。
調和級数( \( s=1 \) のとき) が,収束・発散の境界となっている。
\(s=2k\)(\(k\) は自然数)のとき,\( \zeta(2k) \) の値は知られていて,
\begin{align}
\zeta(2)=\frac{\pi^2}{6} , \zeta(4)=\frac{\pi^4}{90} ,
\zeta(6)=\frac{\pi^6}{945} , \zeta(8)= \frac{\pi^8}{8400} ,
\zeta(10)=\frac{\pi^(10)}{93555} , \zeta(12)=\frac{\pi^12}{638512875} , \cdots \label{4th} \\
\end{align}
である。
これらは,オイラー(Leonhard Euler 1707~1783)によって求められ,
\( \zeta(2k) \) を与える一般式まで得られている。
この関数\( \zeta(2k) (s \gt 1)\) は,リーマン・ゼータ関数と言われ,
数論の分野では欠かせない重要な関数でなっているが,
これが数論にどう関わるのかということも不思議に思われる。
その他に,円周率\( \pi \)が現れる無限級数として
\begin{align}
1 - \frac{1}{3} + \frac{1}{5} - \frac{1}{7} + \frac{1}{9} -
\cdots + \frac{(-1)^(n-1)}{2n-1} + \cdots = \frac{\pi}{4} \label{5th} \\
\end{align}
が有名である。結果だけを見ると,こんな単純な級数から \( \pi \) が現れるなんて不思議でならない。
【補足】グレゴリーの公式は,収束が緩慢なので,\( \pi \) の近似計算には適さない。